ユニバーサル上映映画祭公式ブログ

ユニバーサル上映映画祭の詳細な情報を公開しております。

各主ユニバーサル上映環境の特異性

 以下には、ユニバーサル上映環境の個別説明として、音声ガイド・ミュージックサイン・車いす席について、それぞれの特徴と共に印象的なエピソードを加えてご紹介させていただきます。
 なお、この文章は、各種セミナーや講演会などで、インクルージョン実践研究の開設として、ユニバーサル上映環境にみる普遍的気づきの世界について説明する際に使用している文面になります。


①音声ガイド
 ユニバーサル上映映画祭の音声ガイドは会場全体に流れるオープン方式で、ナレーターがライブでナレーションしていきます。
 スクリーンを見ることのできない視覚障害者の人たちだけのものであってはUDにはなり得ません。
 見える・見えないに関わらず音声ガイドを耳にするすべての人たちにとって、映画の感動を後押しするものとして、映画の芸術性を大切にしながら行間に心地よく染み込ませるように作り上げています。
 ナレーターは場内の雰囲気を肌で感じながら、リアルタイムにライブでシーンガイドをナレーションしていきます。
 事前にガイドの台本は準備しますが、当日の雰囲気などによっては即興のアドリブが登場するところもこの映画祭スタイルの醍醐味です。
・一瞬の奥深さ
 笑顔のシーン一つを取っても、その表現は無限です。「満面の笑み」「頬が緩む」
「笑みを浮かべる」「表情が和らぐ」「笑顔がはじける」などなど。伝わり方が全て違ってきます。また声のトーンやアナウンスの方法によってもニュアンスは微妙に変わってきます。これ程までに一瞬一瞬には目には映らない凝縮される奥深さがあるのです。
・目に見える世界を超越する瞬間
 「目に見えないことにこそ大切なものがある。」
音声ガイド作製を体験した学生が教えてくれました。
 当映画祭では、小中高校生の体験型ワークショップをおこなってきましたが、その中で、一つの映画を題材に、音声ガイドのシナリオを考えて、実際にライブでナレーションをしてくれた高校生が、感動のラストシーンをガイドしたときのことでした。
 そのシーンは主人公の女の子が、学校の屋上で一人、沈む夕日を見ている後姿が移っているというところでした。エンディングの音楽と共に、まさに感動の余韻に包まれている中、その学生は会場全体を暖かく包み込むような感動の空気感に乗って、ゆっくりとした言葉で、次のようなガイドを届けてくれました。
「屋上から沈む夕日を見つめる後姿。その瞳にはうるむ涙と、友達との思い出がうつる。」と。
 そしてこの学生はガイドナレーションを発表し終えた直後に、
「最後のシーンは、夕陽と主人公の背中だけでしたが、映画を通した感情の揺れ動きから、主人公は転校していく友達のことを思ってずっと屋上に立っているのだと感じて、ラストの感動シーンに乗って、感情の通りにガイドしました。」と聞かせてくれたのです。
 このように音声ガイドは、一瞬を切り取った場面から、その行間を深くまで読み込み、感動を分かち合うことを通して、時には目に映らないものの本質までをも、より人間らしい大切な気づきと共に届けてくれるのです。

②ミュージックサイン
 主題歌や挿入局などのBGMから、川のせせらぎ・鳥の鳴き声、電車の音などの背景音に至るまで、映画から流れてくるすべての音も作品の一部。全てに意味があります。
 ミュージックサインは、映画から流れてくる音をスクリーンの横でリアルタイムに手話やボディージェスチャーによって情感豊かに表現します。
 音から感じる喜怒哀楽を視覚化して、映画の芸術性を立体的に相乗していくものです。
 セリフ以外の効果音などの音情報には、無意識の感覚レベルでストーリー性に起伏や色彩を添え、感動を相乗させてくれる大切な効果がありますが、ミュージックサインはそれを視覚的情報として補っていくもので、聞こえる・聞こえないにかかわらずさりげなく感動を引き立ててくれるツールとして楽しんでいただくものです。
・立体的な音の世界
 ある映画のエンディング後に一人の聾唖者が感動した面持ちで話しかけてくれました。
「エンドロールのときに歌が流れているのか?」「今まで知らなかったよ。ずるいぞ!」と、笑顔で、とても嬉しそうに。 そして、続けて「音っていうものは、いくつも重なって聞こえているのか?」と。
 この一コマは、音の世界を共有することを肌で実感できた瞬間、大切なことを私たちに気づかせてくれた宝物のような瞬間でした。
 音楽はオーケストラ演奏のように複数の楽器演奏で立体的に奏されますが、ミュージックサインはそれを複数宇野パフォーマーが可能な限り立体的に表現します。また歌詞のある挿入歌の表現においては、映画全体のストーリー性を背景に歌詞の解釈をしっかりと読み込み、それを手話やジェスチャーの中に繁栄させながら、映画の感動を相乗させるように表現していきます。
「今こんな音が流れているんだよ!」「今のこの感動の気持ちを一緒に分かち合いたい!」と、正に会場の空気感を肌で感じながら、感動の瞬間を共にする大切な仲間に心を寄り添わせて表現するライブパフォーマンスです。

③選べる車いすスペース
 専用席を一箇所に指定するのではなく、見たい角度・座りたい場所などのニーズに応じられるよう、複数のスペースを準備して、受付時にお選びいただきます。
 公共の 映画館などの会場では車いす専用席が必ず確保されているものの、それは一番前の列の両端であることが大半です。映画を鑑賞する環境としては最も劣悪な環境であることに気が付けている人は残念ながら多くはありません。長時間無理な体勢でスクリーンを見続けることは、特に体幹に障害のある方にとっては相当な負担となってしまいます。
 私たちの映画祭では、車いすスペースは必ずど真ん中の絶好のスペースを複数用意し、さらに本人が希望する場所を柔軟に選んでもらえるよう、ハード面とソフト面のユニバーサル環境の整備に努めています。
 このような大切な気づきを皆で共有する場となることも私たちの映画祭が目指している姿なのです。
・「今日の映画を一番楽しんだのは私」
 この言葉は、電動車いすユーザーの一人の女性が、鑑賞後にはじけるような笑顔で伝えてくれた言葉です。
 今まで、映画を観ることは好きだったが、映画館での鑑賞はあきらめていたという彼女は、はじめて大スクリーンを真正面から最後までストレスなく鑑賞し続けることができたのだと…。
 このように宝物のような一つ一つの気づきは、その喜びを共有することで、感動の波紋となってどこまでも優しく広がっていくのです。