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インクルージョン・インタビュー記事のご紹介

フリーペーパー @h Vol.52 2016年秋号新装刊[特集]「障がい」と共に生きる より
・@h l 南北海道のボランティア・NPO・NGO情報
http://www.hif.or.jp/volut/index.html

インタビュー記事
  障がい者と社会の分断解消のために
北海道ユニバーサル上映映画祭実行委員会代表 島信一朗さんに聞く

  島信一朗/1969年札幌市生まれ。一般社団法人函館視覚障害者福祉協議会理事長、インクルーシブ友の会代表。函館市在住。
視覚や聴覚に障がいを持っていても楽しむことのできる「北海道ユニバーサル 上映映画祭」は、今年で11回目を迎える。全上映作品に日本語字幕と音声ガイドが付けてあり、映画の中で使われる音楽や効果音を手話や動作、絵などを使って視覚的に表現する「ミュージックサイン」の取り組みが導入されている。一般的な映画館に 行くことをためらっていた人たちを含め、あらゆる人が楽しめる環境がつくられている。これまでの取り組みがバリアフリー化の推進につながっているとして、今年1月には国土交通大臣表彰を受けた。
島さんは大学生だった21歳のとき、交通事故で視力を失った。障がい者や健常者といった区別を超え、「全ての人々を孤独や孤立、排除や摩擦から援護し、健康で文化的な生活の実現につなげるよう、社会の構成員として包み支え合う」ことを目的とする「インクルージョン」の理念の実現のために、さまざまな活動に取り組んできた。その一つがこの映画祭だ。
2004年、島さんは全盲の水泳選手を描いた映画上映に協力した。その際、障がいを持つ人も楽しめる上映会にしたいというスタッフの思いにふれて感動すると同時に、人の心を動かす映画の魅力にひかれたことが映画祭を始めた原点だという。
映画祭では、障がい者と健常者が同じ会場で作品を鑑賞する。「音声ガイドやミュージックサインなどの工夫で、同じシーンで笑ったり泣いたり感動できていることを、全ての人が共有できます。感動する体験を共有する機会として、映画はぴったりだと思います」。障がい者だけではなく、あらゆる人がその空間 を共有することで、障がい者と社会との「分断」を解消したいという思いが、この映画祭には込められている。
取り組みの積み重ねにより、映画祭にはうれしい変化も生まれていた。「この10年間での子供たちの意識の変化を感じています。以前、映画祭のワークショップに参加した子供が大人になり、運営スタッフに加わったり、教育大函館校の学生が授業の一環として関わったりしています」。大学生は上映作品選びのほか、映画を鑑賞した人たちが感想を共有できる場づくりの企画も行っている。
若い世代の意識の変化を感じる一方で、島さんは映画祭の取り組みがこれまで以上に社会に必要とされていると感じているという。今年7月に神奈川県相模原市障がい者施設で起きた殺傷事件について、「障がい者を社会から分断した社会構造が原因の一つではないでしょうか。この分断を解決するのがインクルージョンだと考えています」と語り、障がい者や健常者といった区別を超え、違いを持つ人間同士が混ざりあって生活する社会の重要性を指摘する。事件を受け、厚生労働省福祉施設の防犯対策に10億円規模の予算を付けた。もちろん防犯対策は侵入者を防ぐには有効だが、障がい者が排除されない社会の実現のために、インクルージョンの理念に基づく行動が私たちに求められるだろう。
2020年には東京でオリンピック、パラリンピックが開かれる。これは日本の「おもてなし」に全世界の注目が集まる機会だ。「東京開催に向け、公立はこだて未来大学インクルージョンのデザインについての研究をしています。日本ならではのインクルージョンを理解してもらう良い機会。研究成果を開催本部へ提案することも考えています」
そう語る島さんは、最近マラソンを始めたそうだ。「障がい者が子どもに伴走してもらいながら走れば,子どもたちにいろいろなことを考えてもらえると思うんですよ」。将来の「インクルーシブ」な社会を支える人材育成のアイデアが、島さんの胸の中にはまだまだあるに違いない。